はじめに

ビジネスの世界って、結局は勝ち負けなんじゃないんですか?

確かに、そういう一面はあります。
というより、結果的には勝ち負けのように見えることが多いと思います。
傍から見れば、あの会社が勝っているな、あの会社は負けたかな、と映る場面もありますよね。
それはそれで仕方がないことだと思います。

では、鈴木さんはどう考えているんですか?

最近あらためて思うんです。
経営にとって本当に重要なのは、勝とうとしないという姿勢のほうなのではないか。
今回は、そのあたりの話をさせてください!

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競合に勝とうとすると、値下げや広告の出し合い、短期の数字を追う働き方に入り込みやすくなります。
この記事では、価格競争をはじめとする「勝つための競争」がなぜ会社を消耗させるのか、そして同じ業界にいても正面から戦わない道があることを、動画の内容に沿って見ていきます。
「ビジネスは勝ち負け」という見方は、どこまで当てはまるのか
外から見ていると、業界の中で誰が勝っていて誰が負けているのか、なんとなく順位がついているように見えます。
でも、実際にやっている側に回ってみると、少し景色が違います。
意外と勝ち負けを意識していない会社もあるんですね。
反対に、勝ちにこだわる会社というのも、やはりあると思います。
同じ業界でも、競争への向き合い方は会社によって違います。
そして外から眺めるかぎりでは、どちらも同じ「競争の参加者」のように見えてしまいます。
売上や規模だけでは、会社の「勝ち負け」は決められない
企業の成果を測る指標には、売上、販売数、市場シェア、利益率、顧客満足、継続率、財務の安定性など、さまざまなものがあります。
売上や店舗数が大きい会社でも、利益が十分に残っているとは限りません。
反対に、販売数が少なくても、特定の顧客から強く支持され、安定した利益を確保している会社もあります。
そのため、外から見える規模だけで、どの会社が勝っているかを単純に判断することはできません。
何を成果と考えるかは、その会社が目指す顧客、価値、事業モデルによって異なります。
勝ちにこだわる会社を見ていて、僕が感じてきたこと
すべての会社に当てはまる話ではありませんが、僕の観察と所感として聞いてください。
日本からアメリカに進出してきて、比較的早い段階で撤退していく会社もありました。
そうした会社を思い返すと、日本での実績を強く打ち出す一方で、現地のお客様にとってどのような価値があるのかを十分に伝えきれていないように見えたことがあります。
日本ではこれだけすごいんです、というアピールから入って、そのまま競争モードに入っていく。
ただ、肝心の中身の部分、つまり商品そのものの魅力や、働いている人の様子が、外から見ていてあまり伝わってこない。
そんな印象を持つこともありました。
これは、ある意味でトレードオフなのだと思っています。
他社の動きを追うことに時間や労力を使いすぎると、その分、自社の商品やお客様、社員のために使える余裕が減ってしまう。
僕はそんなふうに感じています。
国内での実績が、そのまま海外での価値になるとは限らない
海外市場へ進出する時、日本での販売実績や受賞歴、長い歴史は、企業の信頼を示す材料になる場合があります。
一方で、現地の顧客が最も知りたいのは、その会社が日本でどれほど有名かだけではなく、自分たちの課題をどのように解決してくれるのかということです。
日本で評価された商品でも、現地の生活習慣、価格感覚、商習慣、利用場面に合わなければ、同じように受け入れられるとは限りません。
国内での実績を紹介するだけでなく、現地のお客様にとっての具体的なメリットへ置き換えて伝える必要があります。
海外展開では、「日本ですごい会社」から「この市場の顧客に役立つ会社」へ説明を翻訳することも重要になります。
競合を意識しすぎると、何が後回しになるのか
競争は、皆さんも経験があると思いますが、やっぱり消耗します。
結局、頭の中の大部分を競合他社が占めるようになってしまう。
そして、本来いちばん時間を使うべき自分たちのプロダクト、目の前のお客様、一緒に働く従業員のことが、後回しになっていくんですね。
意識の向き先が、自分たちの商品やお客様、そして従業員から、競合他社へと少しずつずれていく。
これが競争の怖いところだと思っています。
競合を知ることと、競合を基準に経営することは別
一般に、企業間の適切な競争には、価格を抑えたり、商品やサービスの品質を高めたり、新しい選択肢を生み出したりする役割があります。
そのため、競争そのものが悪いというわけではありません。
競合他社の価格、商品、顧客層、販売方法を調べること自体には意味があります。
市場でどのような選択肢が提供されているのかを知れば、自社の位置や、お客様が比較している基準を把握しやすくなるからです。
ただし、すべての判断を「競合が始めたから自社も始める」「競合より安くする」と決めていると、自社が何を目指しているのかが曖昧になることがあります。
競合情報は意思決定の材料の一つであって、経営の目的そのものではありません。
競合を参考にしながらも、最終的な判断は自社の顧客と提供価値を基準に行うことが重要です。
お客様の取り合いになると、広告費が膨らんでいく

競争ということになると、要はお客様の取り合いになります。
新規のお客様を追いかけ続けることになるので、広告費もどんどんかけることになるわけですね。
そして他社に負けまいという気持ちで広告を出していると、いくら出稿するかという判断まで、競合の動きに引っ張られていきます。
同じ顧客を同じ場所で追うほど、正面衝突が起こりやすい
複数の企業が、同じ顧客層に対して、同じ広告媒体、似た表現、似た商品で接触すれば、違いが伝わりにくくなります。
その状態では、お客様が比較しやすい価格や割引が、主な判断材料になりやすくなります。
また、同じ広告枠や検索キーワードに企業が集中すれば、顧客へ接触するための費用も増えやすくなります。
こうした競争が続くと、売上を作るために広告費と値引きを増やし続ける状態へ入りかねません。
誰に、どのような理由で選んでもらうのかが曖昧なほど、企業は同じ土俵で消耗しやすくなります。
値下げで対抗し続けると、利益率が下がっていく

競合他社がいくらで出しているのかを見て、それよりも安く出そうとする。
そうすると、どうしても利益率も下がっていきます。
お客様に届けたい価値の話ではなく、他社より安いかどうかの話になってしまう。
他社より安いかどうかばかりを見ていると、自社の商品が持つ良さをどう伝えるかという視点が薄れてしまいます。
価格だけの差別化は、長く維持しにくい
値下げは、お客様に違いを伝えやすく、短期的に反応を得やすい方法です。
一方で、価格は競合他社にも見えやすいため、比較的簡単に追随されます。
一社が値下げすると、他社も価格を下げ、さらに値下げが必要になる場合があります。
また、安い価格を一度お客様に認識されると、その後に通常価格へ戻した時に、割高だと受け取られることもあります。
その結果、販売数が増えても、利益やサービス品質を維持しにくくなる可能性があります。
価格は重要な要素ですが、価格だけを選ばれる理由にすると、競争から抜け出しにくくなります。
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ノルマと短期の数字が、長期の判断を難しくする

競争が激しくなると、ノルマのようなものも設定しがちになります。
そうなると、判断の基準が、今月や今期の業績に偏っていきます。
目の前の数字を追うほど、何年か先を見据えた話がしづらくなるんですね。
そして現場も少しずつすり減っていき、最後は人が離れていく。
競争する、勝とうとするというのは、そういうことなのだと思っています。
問題は目標があることではなく、短期の数字だけで評価すること
売上目標や販売目標は、必要な行動量を考えたり、事業の進み具合を確認したりするための指標になります。
そのため、ノルマや数値目標があること自体を、すべて悪いものとして扱う必要はありません。
ただし、短期の売上や契約数だけで評価すると、値引きを増やす、無理に契約を勧める、将来の顧客満足より今月の数字を優先するといった行動が起こりやすくなります。
一つの数字だけを追うことで、本来守るべき利益、品質、信頼が見えなくなる場合があるのです。
短期の成果と、中長期で守りたい価値の両方を確認できる指標設計が必要になります。
トヨタとフェラーリは、同じ土俵で戦っているのか
競争について考えるとき、自動車業界はとてもわかりやすい例だと思っています。
例に挙げたいのは、フェラーリとトヨタの2社です。
どちらも広く知られた自動車メーカーです。
この2社は同じ自動車業界にいるわけですが、果たして競争しているでしょうか。
フェラーリはそもそもトヨタに勝とうと思っていないでしょうし、反対にトヨタもフェラーリと勝負しようとは思っていないのではないかと思います。
正確に言えば、両社は同じ自動車業界に属していますが、主な顧客層、価格帯、生産規模、購入目的が大きく異なります。
そのため、すべての場面で正面から同じお客様を奪い合っているわけではない、ということですね。
ここで面白いのが営業利益率です。
動画の中では、トヨタが9%くらい、フェラーリが25%くらいという数字でお話ししました。
ここで注目したいのは、販売台数の大小と、売上に対する営業利益の割合の高さは、必ずしも一致しないという点です。
利益率の差だけで、企業の強さや戦略の優劣は決められない
営業利益率は、企業がどの程度の利益を残しているかを見る指標の一つですが、販売台数、価格帯、製品構成、生産方法、研究開発費などによって大きく変わります。
また、利益率は年度ごとに変動します。
トヨタの公式発表では、2026年3月期の営業収益は50兆6,849億円、営業利益は3兆7,662億円とされており、営業利益率はおよそ7.4%になります。
一方、フェラーリの公式発表では、2025年12月期の営業利益率(同社の表記ではEBITマージン)は29.5%とされています。
いずれも2026年10月確認時点の公表値です。
ただし、両社は決算期間、事業規模、商品構成、会計上の前提が異なるため、単純な横並び比較はできません。
この例は、同じ自動車業界でも異なる顧客、価格帯、事業モデルを選べることを示すためのものです。
「競争しないから利益率が高い」と、利益率の差の原因を一つに限定しないよう注意が必要です。
自社が力を発揮できる立ち位置を選ぶということ
フェラーリという会社は、正面から競い合わなくてもよい立ち位置を、自分たちの手で選び取ったのだと思います。
台数で並ぼうという発想が、そもそも入っていないわけですね。
もし現在とは異なる価格帯や販売規模で正面から競争しようとすれば、必要な生産設備、販売網、広告、サービス体制も変わり、今とは異なるコスト構造になる可能性があります。
つまり、どこで戦うかを決めることは、コスト構造そのものを決めることでもあるのだと思います。
同じ業界にいる企業が、すべて同じ顧客を奪い合っているわけではない
企業同士が競合するかどうかは、同じ種類の商品を扱っているかだけでは決まりません。
対象とする顧客、価格帯、購入目的、生産規模、販売方法、ブランドに期待される価値などが異なれば、同じ業界でも主な競争相手は変わります。
例えば、日常の移動手段を広く提供する自動車メーカーと、希少性や走行体験、ブランド価値を重視するメーカーでは、顧客が購入時に比較する基準が大きく異なります。
「競争しない」とは競合が存在しないことではなく、正面から同じ価値を取り合わない位置を選ぶことです。
独自のポジションを作るには「何をしないか」も決める
独自の位置を作ることは、単に他社と違う商品名や広告表現を使うことではありません。
どの顧客を主な対象にするのか、どのような課題を解決するのか、どの価格帯で提供するのかを選ぶ必要があります。
同時に、すべての顧客へ対応する、あらゆる価格帯を扱う、すべての要望を受け入れるといった方針から距離を置くことも必要になります。
限られた人材、資金、時間を複数の方向へ広げすぎると、何の会社なのかが顧客にも社員にも伝わりにくくなるからです。
戦略的なポジショニングとは、何をするかと同時に、何をしないかを選ぶことでもあります。
「競争すること」が目的になっていないか確認したい4つの視点
- 判断の出発点はどこにあるか
顧客の課題や自社の方針ではなく、「競合が始めたから」で決めていないか - 選ばれる理由が価格だけになっていないか
値下げを止めた時にも、顧客が選ぶ理由が残っているか - 短期の数字へ偏っていないか
今月の販売数のために、利益、品質、顧客との信頼を損なっていないか - 自社の主戦場が明確か
誰に、どのような価値を、どのような方法で届ける会社なのか説明できるか
競争から距離を置く第一歩は、他社より勝っているかではなく、自社が誰のために何を実現する会社なのかを確認することです。
まとめ:勝とうとしない代わりに、何に力を注ぐのか
今回お話ししたことを整理すると、まず、競合他社に勝つこと自体を経営の目的にすると、判断の基準が自社の外側へ移ってしまいます。
そして、同じお客様を同じ方法で追いかけるほど、広告費と値引きが増えやすくなり、利益率が下がっていきます。
短期の数字だけで評価するようになると、長期で物事を考えることが難しくなり、働く人も消耗していきます。
一方で、同じ業界にいても、顧客層や価格帯、提供する価値が違えば、正面から同じ土俵で戦う必要はありません。
競争から距離を置くというのは、市場を見ないことではなく、戦う場所を自分たちで選ぶということだと思っています。
では、競合との価格勝負や広告競争から距離を置くとして、企業は代わりに何へ力を使えばよいのでしょうか。
後編では、自社の商品・サービスや、それを支える社員に、時間やお金をどう振り向けていくかについて、エコドライブの実例を交えてお話しします。
よろしければ続けてご覧ください。
情報確認について
本記事は、僕自身の経験と見解をもとに、競合との向き合い方について考えたものです。
トヨタとフェラーリの決算数値については、2026年10月確認時点で公表されている各社の公式発表を参照しています。
掲載しているのは、トヨタの2026年3月期と、フェラーリの2025年12月期の数値です。
決算数値や利益率は年度ごとに変動します。
また、両社は決算期間や事業構成、製品の価格帯、生産規模などが異なるため、利益率だけで企業の強さや戦略の優劣を判断することはできません。
最新の数値は各社の公式IR情報でご確認ください。
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